ひとり山八会 オバケ桜を見に行く
                       
                          (文と写真)佐藤幹郎

競馬馬の故郷ともいわれる北海道の浦河町にオバケ桜というのがある。
今から70年ほど前、中央競馬会の競走馬育成牧場の中に一本の桜の木が花を咲かせ、
その後もたった一本で生き続け、日本で三番目の巨木(幹周4.8メートル)になっても
毎年花を咲かせていることは、牧場関係者のみが知っていた。
この場所が一般人が立ち入れない場所だったからである。

広大な牧場の中に、たった一本の巨木が毎年見事な花をつける姿を一般公開すべきとの声があがり、
今年始めて公開されるというので、見に行ってきた。

地図を調べると、我が家から約120kmの所にある。
自宅から日帰りで行ける桜の名所は全て見ているので、今年はこのオバケ桜を見に行くことにした。



家を8:30amに出発。
2時間ほど車を走らせていると、ラジオから緊急地震速報が車内に響いた!
「震源は宮城県沖。津波に注意」と言っている。その後の情報では、震度5強でかなり強い地震
のようだ。
現在、太平洋を右に眺める沿岸道路を淡々と走っている状況。
津波が来ても左手は山が迫り、すぐには高いところへ待避するルートがない。
さて、どうしようかと思案しているうちに「津波の心配はない」との放送が流れ、ほっとする。

11:00am三石の道の駅で一休み。
道の駅の前には牧場がある。その奥に拡がる雪を頂く日高の山々が美しい。この辺では数日前に雪が降ったためだろう。白銀の峰にしばし見とれる。


  「道の駅みついし」からの風景

浦河町に入り、国道236号から道道746号に入る。道道とは県道に対応する北海道の道である。
私は未知の目的地へのドライブは必ずカーナビに頼ることにしている。そのため、カーナビの地図ソフトもいつも最新のものに更新している。
しかし、オバケ桜などカーナビの地図に登録されているはずもない。
山道を走りながらだんだんと不安になってきた。

  
   道道746を行く

  
    オバケ桜の案内板


と、突然現れたオバケ桜の案内板。やれやれと少し前に進むと、あら大変!
こんな山の中で渋滞である。
車列の先頭に案内係がいて、右手にある駐車場から出てきた台数分だけを誘導して入れているようだ。
何とか20分ほどで入れたが、5、60台はあると思われる駐車場は満杯であった。
  
  
   こんな山奥で渋滞!?

車を降り見物に向かおうとすると、受付があり、検温>手の消毒を求められ
「マスクをしてください」「車に置いてきたので、戻ります」
と言ったら
「マスク差し上げますから、こちらにどうぞ」と言う。


  
    受付のおねえさんからマスクを頂戴する


こんな山の中のだだっ広い牧場を歩くのに、何でマスクが必要か?とも思ったが、おねえさんから
マスクを受け取って、いざいざオバケ桜に向かうことにした。

そして顔を上げると、「何だこれは」その先に桜も見えず、結構急な坂が丘の上に向かって立ちはだかっているではないか、、、

  

  
   小さな子供達にもどんどん抜かれる

もともとこの坂は競走馬の足腰を鍛えるために、馬に跨がった厩舎の係員が上るところで、本来道など
なかった所に、急遽見学者のために砂利混じりの道をつけたのだそうだ。
最近の運動不足と体力の低下を嫌と言うほど感じるが仕方がない。あえぎあえぎ上る。

しばらくして、やっとそれらしき木が見えてきた。

  

もうこれ以上、上るのは限界だ。
ここから望遠でそれらしい桜を写して、引き返すことにするか?
などと情けないことを考えて一息ついているうちに、また歩く意欲が湧いてきて、何とか
オバケ桜のところまでたどり着けた。


  これがオバケ桜

  
    オバケ桜の説明

  
    さらに丘を登ってゆく人たち

オバケ桜を観察していると、ほとんどの人がさらに丘の上へと上ってゆく。
そばにいる人に尋ねると
「オバケ桜の絶景を眺めるには、丘の上から見下ろすのが最高だ。広い牧場にポツンとオバケ桜が
あり、その下にオバケ川が流れている景色が一望できるからだ」と言う。

「オバケ川って何ですか?」
「そもそもオバケ桜という名がついたのは、オバケ川に近いところに木があったからだよ」
と言う。
「オバケ川」そんな地名があるものか。北海道の地名はほとんどがアイヌ語由来だ。アイヌ語に
「オバケ」なんてのがあるのか?
疑問を飲み込んで、さてこれ以上丘を登って、オバケ桜を眼下に見下ろす景色を写真に収めたいが
どうするか?自問する。
結論はすぐ出た:「情けないけど、とてもじゃないが、これ以上上る体力がない。ここまでたどり着くのが、やっとではなかったか!」
「八十歳の哀しさ」をこの時ほど、感じたことはない。
帰ってから、ネットで調べると、こんな景色が見えるらしい。

駐車場に戻り、ふと隣の車を見ると何と神戸ナンバー。ちょうど夫婦らしい老年の二人連れが戻ってきたので、話しかける。約一ヶ月前から、関東をスタート、桜前線の北上に合わせてドライブ旅行を続けているという。小生も見た、北上川沿いの桜並木の話題で盛り上がった。

さて、帰路の途中で「オバケ川」の標識を見つける。前述したように、「オバケ川」なぞ正式な名前じゃ
ないだろうと思っていたのが、そうではなかったのだ。

  
    途中で見つけたオバケ川の標識

昔、オバケ川の近くに行った村人が、山の中で馬の鳴き声や人の声が聞こえたので、その方向を見ても
何も見えなかった、あれはオバケか?というのが由来だとの説があるとのネット情報。
日本広し、といえどもこんな不思議な地名があるとは驚きである。

さて、オバケ桜探訪が終わったので、遅い昼飯をどこかで食うことにする。途中のコンビニで弁当と
「ノンアルコール」ビールを購入。
浦河の桜の名所「二十間道路桜並木」に寄って、桜を眺めながら弁当を食い、ノンアルコールビールで
「打ち上げ」!!
我ながらGood Ideaと、約20分で桜並木に到着。
駐車場に入ろうとするも、車の渋滞と、パトカーがやたらと多い。缶ビールでも飲んでいて、職務質問でもされたらと思い断念。

  
   二十間道路桜並木駐車場

静内町のコンビニの駐車場で遅い昼飯を食い、今日の「ひとり山八会」を終わる。
あれ程、上るのに苦労したのにたった2,650步。
コロナが去ったとき、ほんとの山八会に参加出来るのか?不安を増幅した一日だった。

                                        おわり