先日、横浜の三ツ池公園の桜を見て回っているうちに、幹から直接花が咲いている光景を目にした。
あたかも、木の幹にブーケ(花束)をつけたように見える。よく見ると、あちこちの木にそれがあった。
同行していた高橋さんが、あれは「胴ぶき」という現象だと教えてくれた。
横浜三ツ池公園の「胴ぶき」の桜
樹齢の高い木や何かの理由で木が弱っていると光合成が弱まり、枝を伸ばして花を咲かせることが困難に
なる。それでも何とか木は花を咲かせようと、幹に直接花をつけるように咲く。これを「胴ぶき」というのだそうだ。
毎年めぐってくる春、「今年も何とか生き延びて、春の草花を見ることができた」という感慨に浸る年齢になった。そんな我が身に比べれば、老いて力が弱くなっても、何とか胴ぶきの花を咲かせる桜の木のほうが雄々しく感ずる。見習いたいものだ。
三ツ池公園の桜を話題にしていたら、元の会社の先輩から珍しい写真が送られてきた。
1955年3月の三ツ池公園(堀浩雄氏 撮影・提供)
いずれも、農業用水をたたえる地が県立公園になったわずか一ヶ月後の写真である。
1955年(昭和30年)といえば、洗濯機、冷蔵庫、テレビが「三種の神器」といわれた頃であり、
トランジスタ・ラジオが初めて発売された年でもある。
この写真にはつぼみのふくらんだ桜の若木が何本か見える。それから62年、これらの何本かの木が
胴ぶきの花を咲かせていることを考えると、過ぎゆく年月の速さと厳しさとを禁じ得ない。
それから約一ヶ月後、北限の染井吉野を見物に出かけた。そして、老いとは別の環境に立ち向かう桜が
「胴ぶき」の花を咲かせているのを見つけた。
北海道美唄市東明公園の胴ぶき桜
この桜の木はさして老木とは思われず、むしろ壮年の木とみたが、途中からぽっきりと折れていた。
しかし、幹には数輪の胴ぶきの花がついていた。
折れた幹の向こうには大雪山系の雪を頂いた山が見えた。この冬の間に、強風かはたまた豪雪がこの幹を
折ったのであろう。
それでも巡り来た春に懸命に花を付けている姿が何ともいじらしく思われた。
横浜とは違った厳しい環境に耐えた結果として生じた、また別の「胴ぶき」を見ることが出来た一日であった。