荒木田 多穂
私は少年時代昆虫採集に夢中になっていた。
2才年下の弟と昆虫網を持って野山を駆け巡っていたものである。それから30年後、子供たちが小学生のころ、たまたま九州に転勤になり九州各地で子供達と蝶採りをした。
それからまた30年、こんどは小学生の孫が夏休みの自由研究に蝶採集をしたいというので協力を頼まれた。
初めのうちは我が家の周りで適当に採集していたが、やがて少年時代の気持ちがふつふつと沸いてきて孫達より自分自身 が夢中になり、童心に戻って毎週近くの山に採集に出かけ、ついには群馬、岩手、北海道などに昆虫網を持って出かけるようになってしまった。
この標本は今年採集したものに、保管していた60年前、30年前のものを一部付け加えている
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蝶の季節型
蝶には、季節型がある品種がある。「春型」「夏型」と稀に「秋型」もある。
季節による変異が起こる要因は、蝶の幼虫時 期の昼の長さ、即ち日長時間や気温などに起因するものと言われている。
概して春型は小型で色彩は明るく、夏型は大型で色合いも濃厚で黒ずむ傾向がある。アゲハチョウ科ではそれが顕著に現れる。
秋型の場合は、全体的に尖った感じが発生する。
今回は採集開始時期が遅かったため「春型」は少なく、秋型はスーパー猛暑で発生が遅れている。
美しき侵入者
最近外来種の進入による被害や在来種への影響が問題になっている。西洋タンポポ、アライグマ、台湾リス、マングース、カミツキガメ、ブラックバス等々枚挙にいとまがない。
蝶の世界ではアカボシゴマダラが数年前に初めて発見されて以来、関東で急激に増え続けている。繁殖力が強く,幼虫の食 草が同じ在来種のゴマダラチョウが追いやられて問題になっている。
この蝶は春型のメスが白化するものがあり、奄美大島にいる種とはDNAが異なり、中国大陸原産とされている。
おそらく 心無い愛好家が日本に持ち帰ったものを野に放ったものと考えられる。
この問題は現在東京大江戸博物館で開催中の「大昆虫展」や読売新聞(2010-8-15付)でも取上げられている。
迷蝶・風蝶とカバマダラ
蝶は決まった土地に定着しているのが普通であるが、台風銀座といわれる南九州や四国南部では台湾、フィリピンなどの南 方系蝶が台風や夏の強い季節風に乗って運ばれて日本に迷いこむことがある。また船などの交通機関に紛れてくることもある。
これらを迷蝶とか風蝶と呼んでいる。
この代表のひとつがカバマダラで、この蝶を我が家の庭で捕獲した時は一瞬わが目を疑った。カバマダラは体内に毒を持っているため鳥類に食べられにくく、遠い南方の海から飛来してきたものと思われる。
九州・四国でもニュースになるのを横須賀で捕獲できたのは実にラッキーであり貴重な記録といえる。
カバマダラに擬態する蝶
多くのマダラチョウ科の幼虫はアルカロイドやピリジンを含んだ植物を食べ、成虫にもその毒が残っているため、鳥などの 天敵は決してこの幼虫や成虫を食べない。
同じ地域に生息するタテハチョウ科のメスアカムラサキとツマグロヒョウモンのメスは全く別種にかかわらずカバマダラに そっくりで、飛び方もマダラチョウ科を真似てゆっくり飛ぶ。
近くで見ると模様が違うのが分かるが遠目では区別が付かない。
私も迷蝶のカバマダラを見つけた時、一瞬ツマグロヒョウモンのメスだと思った。
これを擬態というが、両種ともメスだけである。蝶の世界でも化けるのがうまいのは女性のようだ(失礼!)。
写真出典: http://j-nature.jp/butterfly
温暖化の影響
東京でクマゼミの大発生に象徴されるように地球温暖化の影響がこの昆虫の世界にも確実に押し寄せてきている。
30年ぶ りに蝶採集をして一番驚いたのは、以前は九州・沖縄にしか生息しないとされていた南方系の蝶が関東地方でも普通に見ら れるようになったことである。
ナガサキアゲハ、ツマグロヒョウモン、ムラサキツバメ、ツマキチョウが 関東地方で急激に増えている。特にナガサキアゲ ハは古い図鑑には「本州では和歌山で捕獲された記録がある」とある。
それが15年ぐらい前に埼玉で捕獲され、今では関 東地区全域でその優雅な飛翔姿が多く見られるようになっている。
ちなみにナガサキアゲハはかのシーボルトが命名したそうである。