高齢者講習体験記   佐藤 幹郎


  
受講した隣町の自動車学校

ある日次のようなハガキが届いた。
道路交通法改正により、70才以上で運転免許を更新する場合には高齢者講習というのを事前に受けておかなくてはならない(以前は75才以上)すっかり忘れていたが、今年は運転免許更新の年だった。

早速ハガキに記載されている講習場所(ほとんどが自動車教習所)に電話してみるが、どこもすごく混み合っていて、三ヶ月先まで予約で満杯の状態らしい。

理由は北海道は札幌を除いては車がないと生活できないので、高齢者の免許更新率が極めて高いのと、高齢者講習は座学の他に検査や運転実技があり講習に3時間を要するので、数がさばけないということである。

幸い隣町の自動車学校に問い合わせると予約が取れた。それでも2ヶ月先である。

さて、その日がやって来て自動車学校の待合室に行くと、すでに10人以上のお年寄りが集まっていた。
ちょっと不安そうな爺ちゃんお婆ちゃんばかりですこし物哀しい雰囲気だが、自分もそのうちの一人だから、偉そうなことは言っておられない。

やがて、定員の15名がそろい教室に案内される。
講習の内容は、座学1時間、検査1時間、運転実技1時間の予定である。
実際には正味3時間はかからないのだが、検査などは交代交代行われるので、3時間は拘束されるということである。

まず座学からスタートする。
講師から今日の講習は試験ではない。結果が悪かったとしても、免許を受けられなくなるといことではない。あくまでも、皆さんが若い頃の運転能力がどう変化しているかを認識していただくかが目的であるというような主旨が述べられた。

ただし、認知症などが原因で交通事故を起こしてしまったときは、医師の診断を受けなければならず、その結果によっては免許証を返納させられることもありますとも付け加えた。


 座学                         高齢者事故の新聞報道

講義の内容の大半は道路交通法の罰則強化で万が一事故を起こしたら大変ですよというのと、お年寄りの事故がいかに増えているかという説明に費やされ、後半は参加者ひとりひとりに、どのぐらいの頻度で運転していますか、運転の目的は何ですかという質問を一人一人行ってその答えを講師がメモした。

あとで判ったことだが、これは次の検査の結果とも併せて、最後に行う運転実技でどこまでやらせるかの値踏みを一人一人ついて行うのが目的のようだった。

次の検査の待ち時間中に、教室の壁面に所狭しと貼られている高齢者による自動車事故を報じた新聞記事の切り抜きをよく読むようにすすめられた。

次は視力の検査であるが、メガネ屋でもやったことがない特殊なものであった。


 
視野角測定                     動体視力検査

視力検査は、視野狭窄の度合いを検査する視野角測定、高速で動く物体をどれだけ確認できるかの動体視力測定、そしてトンネルに入ったときや夜間急に対向車のライトを受けるなど周囲の明るさが急変したときに視力がどこまで順応追随できるかを調べる夜間視力検査の三項目であった。

結果はその場で検査データを見せられ、ひとりひとりコメントを受けられる。
すべて問題なしとの判定で安心したが、夜間視力で「あなたは目が眩んでから、通常視力に戻るまで一分間以上かかっているので、トンネルの多い道や夜間の運転は避けて下さいとアドバイスされる人も少なくなかった。

次はシミュレータの前に座り、三種類のテストが行われた。


          
シュミレータ

第一段階は真っ直ぐな道を走行し、突然現れる信号を見ながらアクセルとブレーキを操作して、それぞれの反応時間を測定する。
●●●が出たらアクセルから足を離し、●●●はブレーキを踏み、●●●はアクセルを踏み続ける
と言う具合である。

次は障害物のある道路をハンドルを切りながら進む。

そして第三段階では上の二つを組み合わせた複合動作状態をシュミレートする。
車速が上がるとこれはノーミスでやるにはかなり難しい。

ゲーム感覚で気軽にやって下さいと声をかけられるが、実際の運転ではそうもいくまい。
けっこう苦労しているお婆ちゃんがいた。
ここでもパソコンから出力された結果を示されて講師からコメントをもらう。
私は年齢相応以上と評価され問題なし。

全員の検査が終わった。講師から
「次は運転実技を行います。三人一組で行います。グループ分けをしますので、少しお待ち下さい。
20分間休憩とします。」

五人の指導員が入ってきて、全員の検査シートを見ながら何やら相談を始めた。
どうやら、検査結果に基づいてグループ分けをするようだ。

外へ出てタバコを吸っていると、講師がやって来た。いろいろ話を聞くと、杖をついて嫁や娘に連れられてくるひとや、自分で名前を満足に書けないようなひとも来るという。
そういえばシュミレータの前に座るのに、講師に体を支えてもらっていたお爺ちゃんがいたっけ。

これから運転実技を行います。教室からぞろぞろと教習コースへと向かう。五台の教習車が用意されていて、ここでグループ分けが発表される。何とさっきのヨボヨボお爺さんと同じグループになってしまった。

私がトップバッターであった。指導員の指示で、エンジンをかけ、一時停止、信号、進路変更、S字カーブ、バックでの車庫入れなど教習所での仮免メニューに沿ってコースを約10分間回った。

「大変お上手です。ただ、教習所では路肩に停車している状態から進路変更してコースに入る設定になっているのにあなたは乗車前、乗車後の前方、後方の安全確認、発進するときに右ウインカーを出していませんでした。」
とのコメントあり。おヽ、そうだった。何十年も前の自動車学校の記憶が蘇る。

つぎはあのお爺ちゃんの番だ。後ろの席に移り、思わずシートベルトをしっかりと締めた。
最初のアンケートのときも車を運転するのは年に数回しかないと答えていたっけ。
「はい、次は信号ですよ。よく見て。」指導員は親切だ。ブレーキもほとんど指導員が踏んでいるようだ。
そして、進路変更や、S字、車庫入れは省略、ぐるり周回路を一周しただけで終了!
指導員がグループ分けのときに相談していた理由はこれだったのか!?

無事、高齢者講習終了証明書というのをいただいて帰途につく。
この日の費用は5,600円也。自治体により、費用には幅があり、5,600〜6,150円とのことである。
少子化と若者の車離れで閑古鳥が鳴く自動車教習所にとって貴重な収入源とのことだが、理由をつけて年寄りから金をとる制度との批判もあるとか。

後日、高齢者講習終了証明書をもって免許更新を行ってきた。
これがあると、更新時の講習が免除されるので、手続きが簡単になるのはメリットだ。
しかし、高齢者になると更新期間が三年間に短縮されてしまう。(私の場合は、更新時70才なので特例で四年間)

次の講習は74才である。そのとき私の運転能力はどの程度まで落ちているのだろうかなどと考えながら、警察署を後にした。