東京ぶらり 〜湯島の白梅〜
佐藤 幹郎(文と写真)
お茶の水駅近くで用件をすませ、さて昼飯までの間どこかで時間を潰そうと思った。
駅構内の地図を見ると湯島天神が近い。湯島天神といえば菅原道真を祀っている有名な神社。
道真の有名な歌に
東風(こち)吹かば にほひおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春を忘るな
ときはちょうど梅の季節、早速行ってみることにした。
神田川にかかる聖橋を渡り、東京医科歯科大学を左手に見ながら進むと、清水坂がある。
この坂を登り切ったところが湯島天神(正式には湯島天満宮)だ。
坂をのんびり登り始めると、街灯の柱には湯島天満宮 梅まつりののぼりが下がっている。
10分ほどで到着。参道の両側には沢山の店が出ている。
梅がお目当てなのか平日なのに結構な人出である。その理由はすぐに分かった。
菅原道真は学問の神様、受験シーズンとあって合格祈願の絵馬の奉納やお守りを買う人たちも沢山来ているのだ。
まずは今日が予定日の二人目の孫が無事生まれますように安産祈願のお参りを済ませる。
拝殿の入り口には寄進された見事な紅白の梅の植木が飾ってあった。
おみくじが目に入る。普通のおみくじの横に恋みくじというのがある。祈祷料も倍の200円也。
大いに興味があったが年甲斐もなくとの想いから引くのを止めにした。
咲き始めた梅は五、六分咲きといったところ。白梅がほとんどで、紅梅がちらほら。
周りをビルに囲まれた境内はさほど広くはないから、写真を撮りながらの鑑賞はさほど時間がかからない。
一通り梅を見終わったあと、一杯300円也の甘酒を飲むことにした。
ほのかな梅の香りが漂う木のそばで格別の一杯を楽しむ人が多い。
甘酒を楽しんでいると、突然、太鼓の音と子供達の歓声が聞こえてきた。
行ってみると猿回しをやっている。
近所の幼稚園の子供達だろうか、みな目を輝かせて芸が決まると歓声と拍手を浴びせている。
お猿くんは輪くぐりや階段を逆立ちで上り下りなどなかなかの芸達者。
最後は台の間隔を2メートルほど拡げた空中をひと飛びする「八艘飛び」で締めた。
何十年ぶりかで見た猿回しを写真を撮るのも忘れがちに大いに楽しんだ。
芸が全部終わった後、小さな箱が回され、有志のひとが100円玉を入れている。
そして何とお猿が手をついてお礼のお辞儀をしたのだ。
幼稚園の先生が子供達に言った。
「お礼を言うときはお猿さんのようにお辞儀をするのよ」
最近は頭を下げることも知らない大人が多いとか。この子達は大きくなっても今日のお猿のお辞儀を忘れないことだろう。
だいぶ昔に大人気だった上野動物園のお猿電車が動物愛護の高まりによって廃止に追い込まれて以来、猿回しも衰退の一途を辿っているらしい。子供の教育のためにもこの伝統芸は長く残したいものだ。
猿回しの後は、合格祈願の絵馬を拝見することにした。
あるある!こんな状態でよくぞ崩壊しないものだ。
一枚一枚みてゆくと面白いのがある。「〇〇工場の××課に転任できますように」
もうすぐ「人事の春」、自分の力だけではどうにもならないことなので、願をかけるのにはより叶っているのかもしれない。
帰りがてら参道の両側に並んでいるお店を冷やかすことにする。
懐かしの駄菓子の数々は、今では遠くなったしまった子供の頃の記憶を蘇らせてくれる。
ここ湯島天神は泉鏡花の小説「婦系図」を原作とする新派悲劇「湯島の白梅」の舞台にもなったところ。
後に映画化され、小畑実の歌った主題歌も大ヒットした。
今年三十三回忌を迎えるおふくろが大好きな歌だった。子供の頃の思い出はやっぱり母親の記憶へと回帰してゆく。
秋葉原駅まで歩くことにし、境内を出て坂道をぶらぶらと下る。東京の風はまだ冷たい。
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