インターネットカフェ潜入記
佐藤 幹郎
インターネットカフェというところへ一度行ってみたい。
ただただ単純な好奇心からである。薄暗い部屋にパソコンがずらりと並び、ヘッドフォンをつけた若者達が高速インターネット回線を使ってゲームやチャットを楽しむというのはTVなどで見る韓国のネットカフェの図だ。
日本ではどうなのだろう?

知り合いの若い者に訊いてみた。
「ネットカフェってどんなとこ?」
「おじさん、漫画喫茶って行ったことありますか?」
「あゝ、漫画本が一杯置いてある学校の図書室みたいなところで、不味いコーヒーが飲み放題ってやつかな。出始めの頃に二度ほど行ったことがあるよ。」
「最初は漫画喫茶に二、三台のパソコンが置いてあってメールやチャットするくらいでネットの方がおまけみたいな感じだったけど、高速回線が普及してネトゲ(ネットゲームの意味らしい)が主体になったよ。」
「フーン、一度のぞいてみたいな」
てな会話があってからしばらく経ってネットカフェに潜入するチャンスがやってきた。

新横浜のホテルのチェックアウトの時間が午前10時。午後からある会社を訪問することになっているがそれまで約3時間ほどの時間をつぶさなければならない。
ホテルを追い出され当てもなく駅前を歩いていたらネットカフェの看板が目に入った。
普段だとちょっと逡巡するのだが何故かこの日は何も考えずにさっさとこのネットカフェのある雑居ビルのエレベータに乗っていた。

何かご用ですか?
エレベータを下りるとすぐに受け付けがあった。そこから中の様子を伺うと、漫画喫茶でみた本棚らしきものの一部は見えるがあまり見通しがよくない。
訝しげな表情でこちらをチラチラ見ていた若い女の従業員が声をかけてきた。
「何かご用ですか?」
えっ俺を客と見ていないらしい。当たり前だ。中年のおっさんでも場違いなのに、老人が迷いこんで来たとみているようだ。
「い、いやちょっと利用したいのですが、、、、、」
「えっうそ〜」というような顔をしながらも「メンバーカードをお持ちでしょうか?」ときた。
会員制度ではないが、会員になれば割引や特典があるらしい。
結局、平日の時間帯で一番安い3時間970円というコースを前金で払い、決められた番号の個室へと移動する。

インターネットカフェのある新横浜駅前

大型ロッカーみたいな「個室」が並ぶ

部屋の扉を開けると、下の写真のような具合。
中は思ったより狭く、大体1mx1m位。椅子に座って後ろの扉を閉めるとちょっとの間は息が詰まりそうになる。
閉所恐怖症の人は駄目だろう。逆に慣れれば自分だけの世界に入ったような気分になるのかも知れない。
比較的小型のデスクトップパソコンの上にはチャット用のカメラがある。
今は国内ならば無料で相手の姿を見ながらチャットが出来る。気に入った仲間同士でのグループ・ミーティングも
可能だ。
これでどんな話題が話し合われるのだろうか、、、、、

キーボードの上にはカバーがかかっているが、
「キーボードカバーは取り外さずにご利用ください」
との注意書きがある。
チャットやゲームではキーボードを機関銃のように叩く。手に持ったカップから思わず飲み物をこぼすことも
あるだろう。
それに対するお店側の防護策なのであろう。
しかし、手の脂でべとつき気味なので、こんなのには全然潔癖ではない小生でもちょっと尻込み。
注意書きに「違反」してカバーを外した状態で使わせていただくことにする。
ふと見つけたのが、パソコンの上にある棚に載っている小さな金庫。
何に使うのだろう?(この理由はあとでわかった)

個室の内部

パソコンの上のチャット用のwebカメラ
ちょっと不衛生なキーボードカバー
何で置いてあるのかこの金庫

まずはパソコンの性能をチェックしてみる。
チェックするといっても、使っているCPU、メモリの搭載量や使用しているOSなどのシステム情報は画面を一発クリックするだけですぐわかる。
結果はその辺にいくらでもある中級程度の性能のものだった。
次にインターネットの通信速度の測定をしてみる。測定というと大げさだが、最近はwebページにアクセスするだけで回線速度を表示してくれるサイトが多くあるので便利だ。
結果は3Mbpsとまぁネットゲームをやるには問題ないスピードか。
ネットゲームを沢山のお客が同時に始めると変わるのかも知れないが、何せ最初の写真のような状況なので、いまお客がどのぐらい入っているかどうかは全く見当もつかない。

特に目的もなく飛び込んだので、パソコンを一通りいじったところで退屈してきた。
そろりと部屋を出て、店内を歩いてみることにする。

ホットコーヒー、紅茶、烏龍茶、麦茶無料飲み放題だ。
無料のコーヒーを飲みながら週刊誌コーナーへ。
若者向けの車、パソコン、サッカーなどのものが主体だが一般の週刊誌や新聞も数紙置いてある。
週刊誌はバックナンバーも置いてあるので、見逃した記事をみるのには便利だ。
続いてコミック(漫画本)コーナーだが、こちらの充実ぶりはすごい。
日本のネットカフェは漫画喫茶から出発したものが多いと聞いたがその通りである。
上の写真はほんの一部で、全部で万単位の本が陳列されていると思われる。
こんなに沢山あると自分の見たい本はどうやって見つけるのだろう? 心配は無用だった。
自分の借りた部屋のパソコンから本の題名または作者名から検索すると収納されている本棚の番号が
ちゃんと表示されるようになっていた。
多くの映画や音楽ビデオが置いてあるDVDコーナーについても同じ仕組みでした。

パソコンで漫画本のありかを検索
膨大な蔵書量の漫画本コーナー
DVDコーナー
週刊誌・新聞コーナー

さらにぶらついていると、どうやら二人用の部屋もあるようだ。カップルが二人並んで仲間とのチャットでもするのだろうか。
こちらは風紀上の問題だろうか、一人部屋のように「密室」ではなく外からある程度中の様子が見えるようにはなっている。

面白いものを見つける。シャワー室があるのだ。
これで部屋に金庫があった理由がわかった。けっこう「一風呂浴びて」すっきりする客が多いのだろうか。
コーヒーを飲みながらカメラを構えていると男性の店員が現れ、
「コーヒーはお部屋でお飲みください。それから店内の撮影はご遠慮ください」
「はいはいすみません」
DVDコーナーでアクション映画を一本借りて席に戻る。

パソコンでテレビや映画を見慣れていないせいか何となく違和感がつきまとう。
それに映画もつまらない。アクション場面の動きが速すぎて老人にはついて行けないこともあり、で結局半分
位見たところで中断する。

そろそろ昼が近づいたのか腹がへった。
何気なく見ると机の下にお弁当のメニューが置いてある。
「フーム、これにプラスカップ麺でも食うか」と品定めを始めたら、隣の部屋からソレとかアーとかフォーとか意味不明の声が突然聞こえてきた。
ヘッドフォンを外すと隣の物音が実によく聞こえる。
たぶんゲームに熱中してのりまくっているのだろう。

おまけにフリーアクセスの床が安普請らしく、隣の男が時々やる貧乏揺すりの振動まで伝わってくる。
まだ二時間弱しか経っていないがそろそろ引き上げる時間か、、、
どこかで昼飯を食ってちょうど良い時間になる。

ということで、受付に伝票を渡してチェックアウト。
最初「何かご用ですか?」と怪訝な顔をした女店員も「ありがとうございました。またお出で下さい。」ときた。
やっとお客として認めてくれたらしい。

弁当の出前メニュー

後日、ネットカフェのことを教えてくれた若者に感想を報告した。
シャワーまであってちょっとびっくりしたという話をしたら、
「けっこうあそこで泊まる奴がいるから、シャワーは必要なんだ」と言う。
我々が若者だった頃「深夜喫茶」というのがあった。
風俗営業法上は違反となるので眠ってはいけなかったが「布団のない旅館」ともいわれ、深酒して帰るタクシー代がなくなった仲間とよく利用したことを思い出した。
今の若者もそんなときにこのようなネットカフェを利用するのだろうか。
「布団のない旅館」では通常の4〜5倍の値段のコーヒーを飲みながら
ひたすら仲間とだべるしかなかったが、ネットカフェには退屈しない程度に何でもある。しかし、ひっそりと一人だけで来るのだろうな。
などと考えていたら、
「おじさん最近はビリヤードやって飽きたら卓球やって、終わったらマッサージシートで休んでからネットゲームやる店もあるんだよ」
もうこの世の中、老体の想像をはるかに超えてしまっているのでありました。   (完)