すずらんの咲く頃
佐藤 幹郎
北海道の初夏を飾る花はライラックとすずらんです。
私の住んでいる町の隣町の平取(びらとり)町はすずらんの群生地があることで有名です。
私が子供の頃、すずらんはその辺の野原にいくらでも生えているありふれた植物でしたが、乱獲によりどんどん姿を消し、絶滅の危機に瀕したようです。
この平取町の群生地も同じ危機にさらされましたが、10年ほど前から地元の人が監視員を置き、立ち入り禁止処置をとり保護した結果、今では昔通り15ヘクタールの群生地が現状復帰しました。
数年前から、群生地の中に遊歩道を設け、開花期に一般公開しています。
今日、そこへ行ってみました。
町外れの町営牧場の牛達がのんびりと出迎えてくれました。
ここからもう一息山奥に入り、最後は車がやっと一台通れるような深い森の中の道を進みます。
やがて微かにすずらんの香りが車の中に漂い始め、それがはっきりと感じられるようになった頃、眼前が急に開け群生地の駐車場に到着しました。
驚くことに、こんな狭い道をどうやって通って来たのか大きな観光バスが停まっています。
車から出ると、むせるようなすずらんの香りに包まれます。
やがて、薄曇りの空が晴れて日が差し出すと、突然エゾハルゼミの大合唱が始まり、びっくりしました。
その合唱を聴く→ここをクリック
多少の笹、よもぎ、蕗などが混じって生えてはいましたが、広大な原生林の下草が全部すずらん
でした。
監視小屋がある群生地入り口
群生するすずらん
葉陰にひっそりと咲く
群生といっても、すずらんの花は葉に隠れるようにひっそりと咲くので、見た目には全く映えません。
しかし、その香りは圧倒的でした。
群生地の中の遊歩道を歩いていると、歌碑が立っていました。
盲目となりしこだわり消えにけり
スズランかおる野にたたずめば
と読めます。
詠み人は中村 玉仙さん、平成11年NHKすずらんの歌コンクール受賞作とあります。
まさにこの地に立たなければ詠めない歌であり、深い共感を覚えました。
中村さんはこの歌を詠んだ時はやはり、エゾハルゼミの蝉時雨を聴いたのでしょうか?
この群生地がある平取町は金田一博士が初めてアイヌの口承文学の金字塔であるユーカラ(巨編の叙事詩)を発見した場所としても知られており、先住民族アイヌ伝統の土地です。
私が学生時代、同じ下宿にいた薬学部の先輩が、すずらんから今で言う経口避妊薬を造る研究をしていました。
アイヌの娘達は、すずらんの葉を囓ると妊娠しないという言い伝えを信じていたというのが研究を始めたきっかけだそうです。
今頃の季節になると、山深く入り、すずらんの葉を採取し、乾燥させたものを粉砕してリュックに詰めて持ち帰る旅に出て、何週間も帰りませんでした。
当時は交通の便も良くなかったので、すずらんの葉集めは大変だったと想像します。
その後、すずらんの葉の成分から経口避妊薬が抽出できたと言う話を聞いたことがないので、多分先輩の研究は実用化には結びつかなかったのでしょう。
すずらんの花をみるといつも思い出していたこの話を、久しぶりに帰りの車の中で思い出しました。
(2005/6/10記)